本研究室では,自然環境における金属元素の動きやそれに伴う水質汚染影響,汚染水浄化技術,廃棄物からの有価金属回収技術や新規選鉱技術など,金属資源の安定供給と環境負荷削減を目的とした環境浄化技術開発に関する研究を行っています。とくに,水-鉱物界面で生じる様々な化学反応(溶解・沈殿・収着)に注目し,現場調査・試験とラボベースの再現実験に基づき,放射光等による固体表面分析法と地球化学シミュレーションを利用した反応速度論解析を組み合わせた手法で環境資源処理工学分野の研究を進めています。
研究テーマ①:海底鉱物資源開発における環境影響保全技術開発
海底に存在する海底熱水鉱床やマンガン団塊,レアアース泥等の海底鉱物資源は次世代の金属資源として重要な開発対象となっており,開発技術や環境保全技術の確立が求められます。本研究では海底鉱物資源開発に伴って発生しうる金属汚染有無の評価や,それを検知する技術,さらには採鉱で発生する低品の廃棄鉱石および尾鉱からの金属溶出抑制技術開発を目的とした研究を進めています。海底熱水鉱床開発を対象とした研究では,実際の海底熱水噴出孔から採取した多金属硫化物コアを用いて船上や室内で海水反応実験を実施し,溶出成分の化学分析と鉱物学的分析結果をもとに熱水鉱石の溶解速度モデル構築とその詳細な反応機構について調査しています。とくに,鉱石中の異なる硫化鉱物間で生じる電気化学反応(ガルバニック腐食)によって鉱石からの金属溶出が促進されることが新たにわかり,鉱石の種類に応じた溶出金属成分の予測が可能となりました。また,予想される溶出成分と海産藻類の応答を活用した汚染検出試験法(NIESとの共同研究)や船上で実施可能な廃鉱石の物理・化学処理技術の開発に関する研究も進めています。最近では,低品位鉱石の海底処分方法を検討する研究を,同部門の海洋地盤研究室と協働して実施しています。
研究テーマ②:持続可能な鉱業・工場廃水浄化技術開発に関する研究
鉱業廃水中に含まれる亜鉛,カドミウム,マンガンなど,通常高アルカリ(pH>10)条件での処理が必要な金属元素や,ガラス製造・火力発電所等の工場排水中に含まれるホウ素やフッ素,セレンといった難処理陰イオンの効率除去を目的とした新規材料・プロセスの開発に関する研究を行っています。たとえば,天然のバーネス鉱など様々なマンガン酸化物を用いることで,低pH条件で高効率に高濃度の亜鉛,カドミウムを吸着・共沈除去する方法や,廃コンクリート材や酸化マグネシウムなど安価な物質を二次処理(加熱,粉砕)し,除去性能を向上させる方法など,低環境負荷かつ安価な廃水処理技術について検討しています。陸上鉱山廃水処理に関しては国内鉱山を対象に各鉱山の水質・水量に合わせた技術の処理能力やその持続性やコストの試算を行っています。今後は海底鉱物資源開発で発生する水処理技術の開発などにも注力する必要があります。海底鉱物資源開発においてはこのような陸上鉱山の廃水処理技術や管理ノウハウを転用する可能性も考えられます。既に開発が進めらた陸上鉱山で蓄積された知識と経験は大変貴重になります。
研究テーマ③:ベースメタル安定供給を目的とした新規選鉱技術の開発
銅や亜鉛,鉛といったベースメタルの安定供給技術のうち,これら金属を含む硫化鉱石の浮遊選鉱操作の効率化に関する研究を行っています。今後これら金属の社会需要が高まる一方で,一次供給源となる鉱石の低品位化・難処理化が問題となっています。とくに脈石鉱物となる黄鉄鉱の効率的な分離(浮遊抑制)技術の確立が求められており,本研究室では黄鉄鉱表面で生じる各化学反応と親水化プロセスについて分子レベルで調査しています。この浮選技術では用水として海水を用いることが検討されており,現在海洋に生息している鉄酸化菌を用いた浮遊選鉱技術の開発を行っています。微生物を活用することで難処理鉱石にも対応できる技術になるほか,使用する化学薬品を削減することができる可能性があります。
研究テーマ④:鉱床成因における微生物影響の定量評価
陸上で多く見られる火山性塊状硫化物鉱床(VMS)ですが,特に金属資源価値の高い鉱物を含むものは黒鉱鉱床と呼ばれます。鉱床は無機的な化学反応(沈殿,酸化,凝集など)によって形成すると考えられていますが,その成因は詳しくはわかっていません。特に鉱床の成因に微生物反応が関わっている可能性も示唆されています。私たちの研究では,陸上のVMS鉱床のみならず現在進行形で鉱床形成が進む海底熱水鉱床を対象とし,硫黄を利用する微生物の役割を天然試料分析や室内実験,化学モデリングにより明らかにします。また,分子レベルでの素過程解明に留まらず,バイオミネラリゼーションを利用した鉱業プロセスの開発も目指しています。この課題は2023年度開始のJSPS学術変革領域研究B課題『生物鉱学の創成』として採択されており,海洋研究開発機構や早稲田大学,東北大学,九州大学,東京大学,北海道大学,理化学研究所など多くの研究機関とともに研究を進めています。